北九州の企業内学童が提供する、先進的アクティブラーニング #2:株式会社プロデュース
子育ては、チームで行うもの。子育てフィロソフィ代表 山本ユキコです。
“社員の子育ても企業の責任である”と、意識改革を。企業から子育てへの理解と知識を広げていく活動を始めています。
それと同時に、九州の実際の企業の現状のインタビューを九州の派遣会社九州スタッフさんと一緒に始めました。
九州はまだ“遅れている”?
私が「企業から、子育ての知識と価値観を発信する活動を始めたい」と相談すると、多くの人が口をそろえて「九州ではまだ無理だ。東京に行った方がいい」と言われます。
私が父親向けの子育て本を出すときに「九州の書店では、父親向けの育児書の売り上げがほかの地域にくらべて売れない」といわれたり。
九州のトップの進学校の一つでは「女は勉強せんでいいやろ」と教諭に言われる、驚くような文化が、少なくとも最近まであったり。
本当に、九州はそんなに男女共同参画、企業の子育て支援、後進地域なのでしょうか?
まずは現状を見るために、九州で子育て支援に理解のある、実際の企業の取り組みや考えをききとりを始めました。
北九州の企業内学童が提供する、理想のアクティブラーニング
今回は、そんな思いがすべて吹っ飛ぶような、先進的なアクティブラーニングを実施している、北九州の企業、株式会社プロデュースを紹介します。インタビュー中、何度も心が震えました。
株式会社プロデュース
中原社長と、きらめキッズのメンバー。*1
御社の仕事について教えてください
認知症対応のデイサービス、グループホーム、小規模多機能ホームを運営しています。重度の認知症の方たちを見ることができることが事業体の特徴です。介護保険法の地域密着型の事業に特化しています。制度の関係で北九州在住の人しか使えないという縛りがありますが、その分、大手にはできない、きめ細やかな対応がウリです。
例えば「デイサービスを使いたい」と家族は思っていても、行った先の施設に馴染めず続かない。そのような人を紹介してもらうことがあります。私たちの職員はそちらの家庭に数カ月訪問して、人間関係を作ってから、利用者としてサービスに来てもらったりもしています。
人材活用について、働く環境面で工夫されている事はありますか。
1.多様な人材の採用
私が採用面接の時に自己開示ができる「場」を作るのが得意なのですが、そこで、虐待を受けたなどの厳しい人生経験のある人を優先して取っています。仕事ができる目立った人は入れません。発達障害のある職員の家族の方にも仕事ができるときだけ来てもらっています。
社員とパートさんが半数ずつで、年齢は17歳から75歳の人が働いています。70を過ぎても社員として頑張ってくれているスタッフもいます。スタッフの子どもで高校に行けない子も働いてもらっています。
17・8の子で、カレーライスを作ったことのない子がほかの年長のスタッフに教えてもらい、できるようになっていくことがありました。祖父母の世代のスタッフは孫のように指導してくれて、スタッフが一つの家族のような温かさがあります。
2.徹底した人材育成
職員に対して「何のためにこの仕事をしているのか」「何にこだわって仕事をしているのか」について、様々な機会で考えることを行っています。
介護ファシリテーションプログラム研修、「理念と経営」の社内勉強会など、任意でいろいろな勉強会をします。どの研修でも、「自分の会社としてはどうか」と必ず引き付けて考えてもらいます。
社内の研修だけではなく、社外の研修や、(一社)人材開発推進機構の「こだわりカンファレンス」参加など、社外の学びの機会も作っています。
ファシリテーションなどのスキルが育った職員には、同友会会員企業内や、別の企業の研修に講師として活動する機会も作り、スタッフの手取りを上げるための試みとしても進めています。
3.ヨガなどの教室開催で施設間の人材の連携
月に二度のわくわくサークル(社内レクレーション)、毎週ヨガ教室の開催といった身体を動かす教室を事業所全体と地域の方にも告知をして行っています。事業所が全部で4施設あるのですが、同じ施設の人以外なかなか顔を合わせる機会がありません。こういった機会で顔を見知りになっておくと、人事異動の時などいろいろスムーズです。
4.子連れの出社・子どもへの先進的なアクティブラーニングの機会提供
一つの施設では、小学生の子供がいる職員は、職場に連れてきてもらっています。学校が終わったら職場に子ども達が帰ってきます。託児のための特別なスペースなどはなく、ミーティングや来客のある部屋などで子供も過ごしてもらいます。そこで、大人の仕事を自然と見てもらっています。子供達は、研修やミーティングなども一緒に聞いて、来客のお茶出し・茶碗洗いなどもしてくれます。
施設の利用者も子どもがいると一緒に遊んでくれて、和やかな雰囲気を作ってくれます。
小学生の子供たちは「きらめキッズ」という名前で自主的なグループ活動をしています。年度初めには自分たちで規則を作り、やりたいことも自分たちで決めています。
夏祭りと合宿が特別な行事として楽しみにしているようです。大人は場を作って見守るというスタンスです。
イベントのためのバザーの品物を募るポスターを張ったり、チラシをポスティングをしたり、バザーではお客さんの対応などもしました。大人の研修で見聞きした、PDCAなども考えて、活動の後は改善点なども子どもたち同士で検討しています。
10,000円を活動経費として渡しましたが、活動の中で40,000円にまで増やしていきました。そのお金は自由に使っていいと言うと、卒業生達がスペースワールドに行くのに使っています。自由にしていいということで、逆に責任を持ってきちんと使っています。
また、大人のスタッフ同様、外の行事に参加する機会も作っています。具体的には「私がぼくが市長になったらプレゼンテーション大会」に出場しました。高校生や大学生に混じって頑張っていました。「今日は楽しかったね!大人の人と同じ場所・同じテーマでお話ししてもいいんだ」と終了後に言っていたのが印象的でした。
このような子ども達がいることで、新人研修も速やかに進むという利点もあります。
有休の消化は何割くらいですか
平成28年3月~29年2月までで、89.1%です。
有休の消化は当たり前として、100%を目指しています。毎日の休憩時間もお互いが声かけして、取り合うように気を付けています。
女性の平均勤務年数はどのくらいですか
施設自体ができてから、一番古いもので13年、新しいもので2年ということもあり、新しい施設は入れ替わりがまだ多いです。全体としては7~9年の勤務年数の人たちが多いです。立ち上げ当初からの13年のメンバーも2名います。
育休の取得は男・女ともにどのようになっていますか
男性育休も一昨年、嫌がる男性職員に半ば強引に取らせました。1週間とってもらいたかったのですが、3~4日でしたけど。
個人的に夢は、社内結婚で男性に育休を取ってほしいと思っています。「男性が育休もカッコいいよね」となってほしい。60代・70代のおばあちゃん世代の職員が「(自分たちが業務を何とかするから、育休を)取りなさい、取りなさい」と言ってくれる。家族のような関係がありますので、事業所としてはとりやすいと思います。
育休あけに、どのような職種に戻るのでしょうか
パートさんになる人も、社員で戻る人もいます。仕事内容は特に変わりません。
育休の時短勤務は可能ですか。その時はどのような仕事になりますか
子育て中の事務員さんは10:00~13:30 や、10:00~15:00といった勤務にも就いてもらっています。
採用において、どんな人物像が求められますか
学ぼうとする人・向上心と素直さです。なかなか面接の段階で、「ビジョンがある人」を求めるのは難しいので、学ぶ意欲のある前向きな人を求めます。
採用において、どんなスキルが求められますか
資格というなら介護福祉士ですが、なくても大丈夫です。
なかなかいませんが、コーチングとファシリテートのスキルもいいですね。リーダーになる人に必要なスキルですが、トレーニングすると5年はかかるので。身に付けている人が来てくれると助かります。
御社の必要とするような人材を次世代に培うため、子育てと教育に必要なことは何だと思いますか。
意識して日本の子ども達に仕事を見せることだと考えます。「仕事は疲れるし、苦しみもあるが、楽しいものでやりがいがあること」を実際に見てもらうことです。大人の考えで押し付けてはいけない。
大人たちが経営の勉強会をしていることも、見てもらっています。楽しいものだけではないが、子どものころから社会に巻き込むことだ必要だと思います。
子育て中の職員の声を聞かせてください
Aさん 小学校1年・4年の母
毎日、学校のあとに、子供たちが学童よりもお母さんがいるこの職場に「ただいま」と帰って来られるようにしたかった。
そのために先日引っ越しをして、今年度からこの校区の小学校に転校させました。子供たちも、きらめきっずの活動で今の学校に既に友達が何人もいるから「この小学校なら転校していい」と受け入れてくれました。
この会社は、社長の発想力がすごいのだと思います。ただ、年長のスタッフの方々が子連れで働くことに抵抗感があるのが実情です。子どもが職場にいることで私が集中できないことを案じて、子供たちに「下の部屋に行きなさい」と、私が仕事をしている部屋に近づかないようにしてくれます。善意だとは分かるのですが、子供達はいつもは、その部屋の利用者さんたちと遊んでいるのにと思うと、子づれで働くことに気後れしそうです。確かに下の子はまだ、母親に構って欲しがることがありますので、気が散ることがありますが、少しずつ理解しています。
でも、これで私が子供たちを学童など、どこかに預けて働くことに戻ってしまったら、これから「子供を職場に連れてきて働きたい」と、続く人の妨げになってしまいます。子連れで働けることがもっと大々的にならないといけないと思っています。そのためにも、やめてはいけないと自分に言い聞かせて、子連れでの仕事を続けます。
子供たちもここに来ることが「楽しい」といって、表情が明るく変わってきました。ここ二年ほどで本当に子供たちも成長しました。人の役に立つことが心に良い影響があるように思えます。ここでは、私が体験をさせてあげられないことを与えてもらえます。さらにこれからの子供たちの成長も楽しみです。
今後、社長は保育園も設置する計画をしています。その時はうちの子供は、小さな子供達に教えてあげる役割をするのかもしれません。これから子供の人生の糧になるはずです。
私は今まではパートタイムで短時間勤務でしたので、社員として働くようにして慣れるまで毎日大変です。でも、子供のことは安心できる環境にいるので、すごくありがたいです。
聞き取りの印象
これだけのことを実践している企業があることに「ここが現代の北九州なのかどうか」インタビュー中に思わず疑ってしまうほどの衝撃を受けました。
教育の世界では2020年にセンター試験の廃止を肝とした大きな教育改革が行われるのですが、それを見越し一流の高校では、“アクティブ・ラーニング”と呼ばれる、討論や研究をしながら答えのない問題に取り組む学習がすでに増え、仕事に必要な力の獲得に、教育を近づける試みが行われています。
この“アクティブラーニング”が理想的な形で、北九州の一企業によってすでに行われていたことが本当に衝撃的でした。
きらめキッズの取り組みは、教育改革で伸ばすべき力とされている“学力の3要素”のうちの2つ「答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力」・「これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を伸ばすために、非常に有効で実践的なものです。
そして、ここで働く母親がその貴重さを実感し、強い意志をもって働いていることに感動しました。
この仕組みは、「子育てと女性の働き方」と「教育改革」という、日本全体で取り組む大きな課題への、企業の先進的な取り組みの一つのモデルになるでしょう。
*1:お顔を出す許可いただいています。