頭のいいだけの人が医師になる時代の終わり 医師として必要とされる二つのスキル
子育ては、チームで行うもの。子育てフィロソフィ代表 山本ユキコです。
これまでの教育では、ただ頭が良いというだけで偏差値が高い医学部が奨励され、その惰性で医師になることが奨励されていませんでしょうか。
これからはAI(人工知能)の進化で、「どのような医療がいいのか、どのような知識を提供できるのか」といった力やスキルは、AIの方が得意になってしまいますので、必要ではなくなっていくでしょう。では、これから医師を目指すためにはどのようなスキルが必要になるのでしょうか。
医療者による学校や地域教育の重要性を発信するNPO法人地域医療連繋団体.Needs代表・東京都立多摩総合医療センターの進谷医師は、これからは専門知識だけではなく「病気ではなくて人を診る力」と、そのための「コミュニケーション能力」という二つのスキルが医師として必要だと言っています。
進谷医師
病気ではなくて人を診る力
正直、病気は医者が治すものではなくて、患者さん自身の力で治すもの。医者はそれを手助けできるにすぎません。糖尿病があったとしても、医療によりその病気を抱えながら日常生活をおくるができます。病気と共存することができるようになります。そのうえで困ったことがあるときに、さらなる医療で助けることができます。
でも、現代の医療ではすべての病気を治癒させることはできないですし、医療に100%を求められても困るわけです。
高齢者のがん患者さんでは、積極的に入院治療をするよりも、早い段階で症状緩和に徹して、自宅療養をした方が長生きする場合もあります。
病院での治療が必ずしも良い結果になるとは限らず、入院という環境の変化や治療による副作用など、治療することが逆に害になる場合もあります。しかし、決して、何もしないで医療を放棄した方が良いと言いたい訳ではありません。それぞれ個人の状況、病気の状態だけでなく、その人の年齢、生活・家庭環境、考え方などを見て、オーダーメイドでその人が幸せに暮らせるような医療を提供する。
これからの臨床医には、そのような力が必要となります。
コミュニケーション能力
また、自宅に退院する際には、訪問看護や介護などの十分な地域サービスが利用できるかという地域のサポート体制も大切です。看護士・介護士・理学療法士・薬剤師などの専門職が1つのチームとして、患者が地域で生活することをサポートする体制が必要とされています。臨床医には、これらの医療チームが最大限動けるように、キャプテンのようにチームをコーディネートする力が必要です。
僕はバスケットボールをしていたので、バスケットボールに例えると、医師は監督ではなくて、キャプテンだと思っています。キャプテンは一番バスケがうまい選手がなるものではなく、チームメートからの信頼が厚く、チームをまとめられる人間がなった方がいいチームになります。医師が監督ではなくチームをまとめるキャプテンのような立場になることが、これからのチーム医療の理想の形ではないかと思います。
医師の面接は地域の人で
医師の資質が変わって行く中で、医学部の入試も面接重視になってきているという流れがあります。
地域住民が面接官を担うという形式の医学部受験は面白い案なのではないかと考えています。
自分たちを将来診てくれる医師としてどうかと、学生をおじいちゃん、おばあちゃんなど地域住民が面接をする。「この子は良い。お医者さんになって将来自分たちを診てもらいたい。」と思える学生を地域住民が選ぶ。経済的に厳しい学生には、面接した地域住民が少しずつ奨学金を出すようにしたらいい。「この医師は自分達が育てる」と、地域の高齢者の生きがいになるかもしれません。
初期研修の時にも「わしらの子じゃから、わしらが育てる」と、みんな協力的になるでしょうし、医師も地域への恩義を持ち、地域医療への人材確保が目指せるシステムになるかもしれません。そのような患者さんとのつながりが、これからの臨床医として必要な「病気ではなく、人を診る」力を育てることに繋がるのではないでしょうか。
進谷医師のインタビューを通じて、医師は、偏差値競争の最高位のトロフィーのような進路から、「医者になりたい学生が医者を目指す」当たり前の進路へ回帰が見えてきました。
もちろん学力も必要ですので、勉強も頑張らなければいけません。ただ、それだけではなく、これから医師になりたい学生にとっての資質となるのは、地域コミュニティの大事な要としての役割を担うために必要なコミュニケーション能力。
最初からその様な人間である必要はないでしょうが、そのような医師に育つことができることは必要でしょう。「地域の患者さんたちから医師として育ててもらえる人間としての魅力」がしいて言うなら、資質として必要なのかもしれません。勉強だけでなく、チームスポーツでチームワークを体得する経験や、多世代の人と交流する習い事や地域ボランティアなどの経験が、そのような力を育ててくれるのかもしれません。